まちライブラリー@Umidassの書籍紹介です。

本日は、前回の小説伊尹伝「天空の舟」に引き続いて歴史小説です。
今回は、宮城谷昌光さんの「沈黙の王」です。

前回の宣言通り宮城谷昌光さんの書籍紹介は歴史順に行きます。
今回の「沈黙の王」は短編集です。正直言うと私は短編集はちょっと苦手です。特に歴史小説の場合にはその時代背景などがわかっていれば良いのですが、そうでない場合にはどうしても短編集では気持ちの盛り上がる前に終わってしまう感が強いです。

「沈黙の王」は、5つの短編からなっているのですが、歴史小説では取り上げられにくい人物、時期を取り上げています。そういう意味では前後の長編小説を読んだあとに、補完的に読むと楽しめるのではないかと思います。

それでは、その5つの短編を少しだけ紹介します。

「沈黙の王」・・・商(殷)王朝の二十代目の小乙(しょういつ)の時代の話です。で、誰の話なのかということですが、高宗武丁の話です。言葉を発することができなかった武丁が中国で初めて文字を作り出すまでのお話です。中国歴史小説では、高宗武丁の名はよく出てくるのですが、どんな人だったのかイメージができにくいということがあります。その点ではおもしろいです。

「地中の火」・・・前回紹介した小説伊尹伝「天空の舟」の紹介の中で「過去に夏王を伐った王臣がいた。「羿(げい)」がそれだが ~略~ 副臣の寒浞(かんさく)に暗殺され ~略~だれも革命とはいわない。反逆でしかない。」という一文を紹介しました。まさにその羿(げい)と寒浞(かんさく)の話です。

「怪異記」・・・こちらは少し時代が違います。周の時代の幽王が絶世の美女の褒姒(ほうじ)に入れ込んで西周が滅びてしまうという話です。春秋戦国時代の話ですが、それ以降の歴史小説では、褒姒の逸話はたまにでてきます。

この短編では美しさにも陰と陽があるというとらえ方をしており、なかなか興味深い捉え方です。また、「あでやかさとは妖気だ。女のあでやかさをみて、人の心が正しくなることはない」という一文はなるほどと思わせます。

また、この短編では豆知識的なこととして、夫人をあらわす婦という字は、箒(ほうき)がもとの字で、掃く、という動詞もそこから派生したように、婦人は廟室など、聖なる室の管理者なのであるという一節があります。掃除をするかた婦人という言いますが、このように説明されると少し印象が変わります。

「豊穣(ほうじょう)の門」・・・これは、「怪異記」との連作です。「怪異記」で無念に終わってしまう鄭(てい)の友の後をついだ屈突の話です。短編ですが、連作なので楽しく読めます。

「鳳凰の冠」・・・さらに時代が進んだ斉の晏嬰(あんえい)と同じ時代を生きた叔向の話です。歴史順に紹介していくと晏嬰の小説である「晏子」の紹介までは少し先になりますが、「晏子」で敵国側の人物です。先にこちらを読んでから「晏子」を読むのもいいんじゃないかと思わせる短編です。